One Touch Freak

Something in your 24-hours, for Quality of life. 毎日の生活の中から豊かになるきっかけを.

トオルちゃん 001

安物のフリースに着古したジーンズとサンダルを履いた男は、両手に中身がいっぱいに詰まったスーパーの買い物袋を抱え、あくびをしながら通りを歩いて行く。イイ大人の男が昼間からこの姿で堂々と街中を歩いていると流石に若干良くない意味で目につくものの、どうやら本人はまったくそれを気にしていない様だ。しばらくすると破れないように二重に重ねたビニール袋を、両方とも右手で持ち、ポケットから携帯電話を取り出して何やら話をしはじめた。

『ええ!?マジっすか?』。
明らかに男はかかってきたその電話を歓迎していない。

『かんべんしてくださいよホントに,,,。あ、あ、わかまりましたよ、もう,,,。じゃあ、ちょっと先生のところに寄ってから行くんで,,,。ああ、はいはい。できるだけ早く行きますから』。
彼は困り果てた表情をして一瞬歩みを停めてしまったが、スグに買い物袋を両手に持ちなおして再び歩きはじめた。

『ああ、ねみぃ』。
聞こえるか聞こえないかくらいの声で繰り返し数回そうつぶやきながらまたしばらく行くと、男は古い戸建て住宅の前で立ち止まりインターフォンを押した。

『あ、大森です』。
男が自分の名前を告げるとスグに家の中から年老いた男性が姿をあらわした。

『おおお、お疲れ様。悪いねぇいつも』。

『何言ってるんですか、気にしないでくださいよ。当然ですから』。
年老いた男性は男の訪問に心から感謝している様子だったが、彼はどこか体を悪い様子でもなく、軽く立ち話を済ませると、そそくさと家の中へ受け取った荷物を持っていき、10分もしないウチにまた外へ出てきた。

『これからまた、店に行かないといけないんですよ』。
若い方の男が親指と人差し指と中指で何かをつまむ素振りをしながら明らかに嫌そうな顔をしてそう言うと、年老いた男性は苦笑いをしながら彼を見送った。

『ああ、面倒くせぇ,,,』。
携帯電話のメールを読みながら後頭をかきつつ男は来た道をまた街中へ引き返していく。どうやら彼はやっかいな事情を抱えている様だ。

東京都大田区蒲田。車で移動すれば10分少々で羽田空港まで行けるこの街には、少し前の日本を思い出させる風景が点在している。背の高いビルやランドマーク的な建物こそ無いものの、東口にも西口にもいわゆる元気の良い商店街があり、遊ぶにも、買い物をするにも、食事をするにも、一通りすべて揃っている。

男は年老いた男性の家を出た後、JR京浜東北線・蒲田駅西口から目とハナの先にある雑居ビルにたどり着き、古びたエレベーターでビルの3階まで上がり、フロアの奥にある雀荘の中へかったるそうな表情をして入っていった。

『おっそいよ、トオルちゃぁん』。
男は店に入るなりいきなり、作業着姿の男からリミットに達しつつあった不満をあびせられた。

『はいはい、すいませんねぇ』。
ため息をつきながらおもむろに流し場に置いてあったコップを手に取ると、ドリンクサーバーでコップ一杯にアイスコーヒー注ぎ席に着く。

『いまとなっちゃコレもオレの立派な仕事だよ』。
男が席に着くや否や、作業着姿の男がそう言いながら待ちかねた顔をして全自動卓のボタンを押した。

『そんな事言ってアンタいつも負けてばかりじゃないのよ』。
作業着姿の男の左側に座っている年配の女性が早口で彼に詰め寄る。

『かあちゃんに仕事してる振りしとかないといけねえしなぁ。まあ、それも立派な仕事だわなあ、シンちゃん』。
その右隣に座った黒淵メガネにセーターを着た初老の男性が女性に追随した。

『失敬だなぁマスターはいつもォ。オレは客だよ。一応ゲーム代だって払ってんだからさぁ。そんな事ばっかり言ってると他の店に浮気しちゃうよ』。

『どこ行っても他じゃここ以上に負けるから結局戻って来るんでしょうがアンタは』。
スグに女性が年季の入ったキツイ言葉で釘を指す。

『ははははは、いつも悪いねぇシンちゃん』。
セーター姿の男性はケラケラ笑い出した。

『うるせぇよこの野郎。ホント許さねぇからな今日という今日は』。

『ははは』。
フリースを着た男はいつもながらの取るに足らない会話に表情を緩めながら、コーヒーを口にしつつ携帯電話をいじっている。

『今日は予約何件くらい入ってんの?』。
携帯電話をいじっているその様子見て作業着姿の男が彼にそうたずねた。

『いまのところ、、、3件かな』。


『おおお、すごいじゃん。ルナちゃんさまさまだねぇ』。

『いや、今日はチサトの予約も一件入ってる』。

『えっ、あの子平日ダメなんじゃなかったっけ?』。

『何か金貸してた友達が急に連絡取れなくなっちゃったみたいで今月厳しいらしい』。

『へえ、そうなんだ。まあ、いいや。で、今日はオレどうすればイイ?』。
  
『ルナの方を頼むわ』。

『あいよ』。    
自分達より一回り以上も若い二人の男性と同じ卓を囲んでいる年配の男性と女性は、彼らが何についてどんな話をしているのか完全に理解している。彼らよりいくらか長く人生を経験している二人にとっては、ともすれば彼らの会話から何年か前の自分達の姿を懐かしく垣間見ることすらできるくらいなのかもしれない。

『シンちゃん、社長の具合は?』。
マスターと呼ばれている男性が作業着姿の男にたずねた。

『ああ、熱はだいぶ下がったみたいだけどねぇ、仕事をするのはまだ早いかなぁ。あと、2、3日はかかると思うよ』。

『そうすっと、今日は大泉が工場仕切ってんの?』。

『うん。アイツ、先週トオルちゃんとこの仕事三日も出やがったからねぇ、今週はしっかり工場見てもらわないと』。

『あのさぁ、そんなにあの仕事が好きなんだったら久米川さんがやってよ』。
さっきからトオルちゃんと呼ばれているフリースを着た男が不機嫌そうな顔をして、久米川という名前らしき作業着姿の男にそう言った。

『いやいや、だからさぁ、オレは、ほら、やっかいなの2人も抱えてるじゃん。そういうワケにもいかないのよ』。

『アンタはホント何から何まで大森君の世話になってんだから、たまには何かしてあげなさいよね』。
再び年季の入った釘が作業着姿の男に打ち込まれる。

『わかってますって。そのウチ麻雀でしっかり稼いでたっぷり恩返しさせてもらいますから』。
作業着姿の男がそう言い終えた途端、トオルちゃんが手元の牌を倒した。

『悪い、それ当たりね』。

『えっ?』。

『インパチかな』。

『はあ?ちょっと、何それぇ、リーチかけてよ』。
作業着姿の男の表情から一気に余裕が消え失せた。

『ごめん、ごめん。まあ、でもこれも恩返しなんでしょ?』。

『はあ?』。

『ははは、アンタはホントどうしよもないねぇ』。   

年配の女性はそうつぶやいて席を立つと慣れた手つきで湯のみにお茶を入れ、また席に着いた。女性の手元のそのお茶はまたスグに作業着姿の男に濁されるのかと思いきや、時間が経てば経つほど男の口数は減っていく。流石にその様子を見かねたマスターが気を効かせて彼が捨てた当たり牌を見逃すと、彼は気づかないふりをしてその直後にマスターから安い手を上がったりする。

『わりいねマスター』。       
失ったモノの大きさに比べ、まったくと言って良い程つり合わないわずかばかりの見返りを手にして、彼は本来いるべき場所でもある、街の小さな工場で得る事はできない、つかの間の喜びを享受している。

『これでやっと親がまわってきたしね』。
仕切りなおして男が作業着の腕をまくると、トオルちゃんの携帯電話が鳴った。

『おお、どうしたの? xxxx。△△△、○○○、、、、ええ、何、そんなに困ってんの?』。

『チサトちゃんから?』。
通話中のトオルちゃんは作業着姿の男の問いかけにうなづきながら電話を続ける。

『ごめんねシンちゃん、ツモっちゃったよ』。

『はっ、、、』。
マスターが作業着姿の男の様子をうかがいなら手配を倒し、またたく間に彼の親番が終わると、程なくしてこの半荘も終了した。結果は、、、言うまでもない。

『あ、じゃあ、ちょっと待ってて。スグにかけなおすから』。
トオルちゃんは頃合いを見計らっていったん電話を切り、トップの勝ち分を他の三人から受け取った。

『うっすー。あ、トオルさん、お疲れです』。
人なつっこいを顔したスーツ姿の男が、まるで狙ったかの様なタイミングで店に入ってきた。

『おお、ちょうどイイや。マスター、ワタル来たから今日はこれで失礼しますね』。

『おお、わかった』。
マスターがうなづくと、ちゃちゃちゃとトイレで用を済ませたトオルちゃんは出入り口の自動扉の辺りで振り返り、いまさっき店に入ってきたスーツ姿の男に一声かける。

『ワタル、今日も久米川さん絶好調だから』。

『ういーっす』。
スーツ姿の男が笑いながらそう答えるのを見てハラを立てた作業着姿の男が口を開いた。

『ちっくしょ、ワタルは昨日大負けしてただろ、、、。トオルちゃんまた明日もだからなぁ。とりあえず俺もあともう半荘やったらここ出るからさぁ』。

『明日はマジで無理だから。それより、ルナは時間にルーズな人間が嫌いみたいだからさぁ、気をつけてよ』。
そう言い終えると、トオルちゃんは店を出てポケットから携帯を取り出し、エレベーターは使わずにその脇の階段で一階へ下りて行った。

『ああ、悪い悪い。いま大丈夫』。

『あ、ちょっと待って』。         
電話の向こうの女性は小声でそう言うと、場所をあらためてからまた電話口に出なおした。

『おお、あのさぁ、その金貸してた二人の友達ってどんな仕事してんの?』。

『ええ、夜の仕事だけど、、、』。

『マジかよ?何、キャバクラ?』。

『ええ、、、デリヘルだけど、何で?』。
彼女は答えにくい質問に若干たじろいでいる様子だったが、トオルちゃんはかまうことなく続ける。

『何だよ、二人ともデリヘル嬢なの?』。

『うん、、、』。

『あのさぁ、デリで働いてんだったらそれなりに稼いでんだろ?何であんま金持ってないお前がそいつらに二十万も貸すんだよ?』。

『だって、、、二人ともせっぱ詰まってる感じだったし、スグに返すって言ってたから』。

『お前ホントさぁ、そんな理由で金貸してくれって言われたって貸すわけねぇだろ、マジで。オレもかっつんかっつんなんだからさぁ。たぶん借金も入れたらオレの全財産なんてお前の以下だよ』。

『えっ、そうなの?』。
女性の声が一瞬明るくなった。

『で、そいつら何て名前の店で働いてんの?』。

『え、何で?』。

『お前、、、デリヘルのバイトまで掛け持ちしてる金欠OLが二十万も借金踏み倒されてんだからさぁ、どうやってでも回収しないといけないんじゃないの?』。

『う、、、ん。まあ、ね』。

『まあ、ねじゃねぇよ。別に必要無いんだったらオレは何もしないよ。働いて自分で穴埋めろ』。

『わかりました。えっと、、、たしか、パンプキンって名前だったと思う』。

『パンプキンね。じゃあ、調べとくからさぁ。とりあえずこの後、六時に蒲田駅前で合流な』。

『うん、わかった』。
トオルちゃんは電話を切ると何やら険しい顔をして駅の階段を上り反対側の駅東口へ向かって歩いていった。
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  1. 2014/12/20(土) 09:27:43|
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