One Touch Freak

Something in your 24-hours, for Quality of life. 毎日の生活の中から豊かになるきっかけを.

トオルちゃん 004

昼間は広々とした野球場数面を見渡せる絶好のポジションも、日が暮れてしまえば、ただの薄暗い物静かな場所でしかない。電話を切った後、しばらくの間は何とか持ちこたえていたものの、やはり数日分が蓄積され強大に増殖した睡魔に打ち勝つことはできず、スグに敢え無く撃沈した。

チサトが一仕事終える頃に合わせてアラームをしかけておいたため、その安心感が拍車をかけて、強大に増殖した睡魔と張り合う程の深い眠りに落ちていく。現在の彼にとって、この上のない至福の一時の到来。ただし、案の定、それは夢幻の如く瞬く間に終わりを遂げる。

「ジリリリリ....」
どちらかと言えば現在どきの若者っぽくない彼は、スマートホンのアラームの音も標準的な置時計のベル音にしている。

「う...ん」
フリースの襟に着いた涎が眠りの深さを物語っていたが、アラームが鳴るということは、そろそろチサトが一仕事終える時間でもある。まだハッキリと目が覚めてはいなかったが、かろうじて電話番号を呼び出し電話したものの案の定チサトは出ない。そういう時は数分おきに電話をかけて着信履歴を残す、これしかないわけだが、今日の睡魔はいつも以上に質(たち)が悪くどうにも頭が冴えない。意識朦朧とした中で、リダイヤルを繰り返していると、手にしたスマホから突然着信音が流れはじめた。半開きの瞳でディスプレイを確認してみると、ルナと表示されている。

「もしもし」

「あ、トオルさん?ルナですけど」
確かにルナの声だった。彼女の送迎はいまさっきまで一緒に麻雀をしていた久米川に任せてあるはずだったが。

「なに?」

「あ、もしかして寝てました?」

「ああ、チョットね。で、なに?」

「すません、明日なんですけど、休ませてもらってもイイですか?」
売れっ娘の彼女ともなると、明日も常連客の予約が2件も入っている。本当は即却下したいところだが、売れっ娘なだけにあまりぞんざいに扱うワケにもいかず

「何、どうしたの?」

「急遽、どうしてもはずせない用事ができちゃって。予約してくれてたお客さんには私から直接連絡入れておきますから」

「どんな用事なのよ?」

「えっ?」

「だってさぁ、予約してくれてたお客さんが納得してくれても、店の営業的な問題だってあるじゃん」

「まあ、そうですけど、どうしても外せない用事なんで」

「だから、どんな...」
そう言いかけたところにチサトからキャッチが入った。

「あ、キャッチ入ったからまた後で折り返す。もう、久米川さんとは合流してるんでしょ?」

「はい」

「ああ、んじゃ、後で折り返すからちょっと待ってて」
電話を切り替えると、必然的に声の主もかわる。

「現在どこ?」
チサトの口調はあいかわらずサバサバしており、音程を少し低くすれば完全に男がしゃべっていると間違ってしまうだろうと思えるくらい女らしさが欠けている。

「すぐ近くにいるから。来る時に通ったセブンイレブンのとこまで来て」

「わかった」
ある意味プロフェッショナルとして意識の高い彼女が、目上のビジネスパートナーの指示に素直に従わない事はほとんど無い。車をまわして数分後にコンビニの前で拾った彼女の様子は、客の部屋に入っていく前と何ら変わっていなかった。

「お疲れ」

「お、おお、、、」
本来は彼が彼女にそう声をかけなければいけないのだが。

「次は?」
残念ながらチサトの次の客はまだ決まっていない。

「まだ、決まってないわ」

「わかった」
一言そう口にすると、彼女はすぐにバックから取り出したスマートホンをいじりはじめた。


「で、どうだった、さっきの客?」
停車しやすい場所に向かうため車を運転しつつ、いつもの客評論がはじまる。

「かなりウケたんですけど」
彼女はニヤリと笑いながらそう答えた。

「どういう風に?」

「何かエロ雑誌とかに載せる記事を書いてるライターらしくて、アタシもインタビューされちゃった」

「はあ、マジで?何聞かれたの?」

「この仕事をはじめたきっかけとか、一日どれくらい稼ぐのかとか、得意なプレーはとかだけど。大丈夫、店の名前もアタシの名前も出さないって言ってたから」

「いや、お前、そういう問題じゃなくてさあ。で、いくらかもらったの?」

「内緒」

「お前それはちゃんと渡しておかないと」

「じゃあ、一銭ももらってないから」

「じゃあ、じゃねーよ。つーか、いくらかちょうだいって言ってんだよ」

「嫌だ。アタシが貸したお金が返ってこなくて困ってんの知ってんでしょ」
そう言われればそうだった。

「何だよ。で、その客、何ていう雑誌のライターなの?」

「何かいくつか掛け持ちしてるみたいで、お店に潜入したりデリの娘に聞き込みしたりで、毎日忙しいんだって」

「何だそれ、最高の仕事じゃねーかよ。個人的にお友達になっておきたいなあ。明日また行こ」
片側2斜線の道に出るなり運転する車を道路の脇に停めた彼は、ハザードを点滅させたかと思いきやスグに、いまさっきの客の電話番号を確認しはじめた。

「ちょー、バカ」

「うるせーな、こういうのだって貴重な仕事の情報なんだよ。オレなんかある意味現場の人間なんだから、うってつけだろ」


「あ、そうだね」
彼が取ってつけた様に補足したその言葉に対して、彼女は真顔でそう答えている。

「他に何か面白い事言ってた?」

「ああ、何か、天王洲アイルの高級マンションの一室で開かれているPARTYに誘われたことはあるか?って聞かれたけど」

「何だそれ?天王洲アイルで何かやってんの?」

「知らない。それ以上聞いてないから」
テレビドラマのロケ地に選ばれる事も多く、駅周辺のビジネス街をはじめ昼間の顔だけがクローズアップされる天王洲アイルの夜の顔。おそらく自分達以外にもそれを知る人は少ないはず。バブル全盛期頃はまだ倉庫街だった当地に、長い年月をかけて根付くの夜の顔は一般的に存在していないと認識されているはずだが。

「あ、そうだ」
トオルちゃんが何かを思い出した。

「ルナが明日休みたいって言ってるんだけど、かわりに明日出れる?」

「ええ、何で?」

「何か、どうしても外せない用事だって言ってたけど」

「どーせ、またさあ...」

「何?何かやってんのアイツ?」

「ええ...」
彼女はしばらくの間もったいぶるというか、言い出しづらそうにしていたが

「あのコ、最近ホストにはまっててさあ、たぶん明日もそっち関係だと思うよ」

「マジか?」

「たぶんね。あのコ韓流が好きみたいで、韓国人の男のカラダ無しじゃ生きていけないって良く言ってるから」

「韓国人の男じゃなくて、韓国人の男のカラダなのな。何、韓国人のホストなの?」
そう言えば、彼女以外にも韓流好きなデリ嬢が何人かいたような気がする。

「うん」

「何だよアイツ、ホストに貢ぐくらいだったら俺達に金貸せっつーんだよ、なあ?稼いでんだからさあ」

「ホントだよ」

「ちょっとさあ、電話して、しれ~っとそこらヘンの事聞いてみてよ」

「うん、わかった」
何事もビジネスライクに、かつ迅速に対応する彼女は、そう言い終えるや否や手にしたスマートホンで電話をかけはじめた。

「もしもし」

「もしもし」
どうやら奇跡的にもルナが電話に出た様だ。チサトがスマホの音声をスピーカーモードに切り替えていたので、電話の向こうの声も聞こえる。

「現在、電話大丈夫?」

「電話は大丈夫だけど、何か渋滞に巻き込まれちゃったみたいで身動き取れなくなってる」

「あ、そうなんだ。あのさあ、さっきトオルさんに電話して、明日休みたいって言ったの?」

「うん、した」

「何、何かあったの?」

「いやあ、急用ができちゃってさあ」

「何、急用って?どーせまたホスト君がらみなんじゃないの?」

「まあ、そうなんだけどね」
電話の向こう側にいる彼女は意外にも簡単にそれを認めた。

「何なのよ、かわりにアタシが明日出ろって言われてんだからね」

「イイじゃん、チサトお金困ってるって言ってたじゃん」
安易に危険なコースへ投げ込まれた直球は、電話のこちら側にいる彼女に火をつけた。

「はあ、何言ってんのアンタ?何でアンタの都合でアタシが振り回されなきゃなんないのよ」

「イイじゃん、イイじゃん。何かすごいVIPが集まるPARTYがあるらしくてさあ、一緒に行こうって誘われてて。うまくいったら今度チサトにも声かけるから。ね」

「何それ?どこであんのよ?」

「わかんない。とりあえず夜7時に品川駅で待ち合わせだから、明日はムリなんだって」
電話の向こう側の彼女がそう言うと、隣でそれを聞いていたトオルちゃんが、チサトの肩をつかんで、声には出さずにその電話を切るよう指示した。

「また、後でかけなおすから」
そう言うと、チサトは明らかに不機嫌な表情をしたまま電話を切り、こちらの方を向こうともしない。

「チサトは明日の夜、何か予定入ってんの?」

「ええ、アタシは別に何もないけど」
   
「ああ、じゃあ、明日店出なくてイイから、そのかわり手伝ってくんない?」

「はあ、何を?」

「尾行だよ、尾行。すごいVIPが集まるって言うんだから興味あるだろ?しかも、アイツが言うくらいだから、マジですごいんじゃねえの?」

「ああ、そう言われるとそうかもしれないね」
彼女のこのヘンの切り替えの早さは、頭の回転が早いからか、単純にあまりよく考えていないだけなのか、極めてグレーである。

「とりあえず、昼間の仕事早めに切り上げたらソッコー品川まで来てくれよ」

「わかった」
とにかく早い。

そうこうしてるウチにチサトに次の客の予定が入り、停めてあった車はハザードを消して再び夜の街をはしりはじめた。
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  1. 2014/12/31(水) 23:47:27|
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