One Touch Freak

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トオルちゃん 007

城南エリア随一のターミナルでもある品川駅は四六時中人の往来が激しく、新幹線の発着駅ということもあってスーツケースを引きながら歩く人の姿も目につく。最近あまり電車を使わなくなったトオルちゃんは、何故だか急にJRではなく京急線を使ってみたくなった。ただ、残念ながら彼は京急線が頻繁に停車する事を京急蒲田駅で乗車した後に思い出した様で、案の定電車は途中でトラブルに見舞われ長時間停車した。時刻表通りにいけば間に合うはずだったにもかかわらず、品川駅に到着するまでかなりの時間を要してしまった。ポケットから取り出したスマホで時間を確認するとディスプレイ画面には~18:14分~と表示されている。ルナ、チサトからの着信も数件記録されていた。

「ホントにすいません」
それから数分もしない間にルナと合流した。欠勤を理由に難癖つけていたため、時間に遅れてしまったものの立場はこちらの方が上の様だ。PARTY仕様の彼女はいつも以上に派手な装いで、それなりに男性ウケする容姿をしていることもあってか完全に周囲から注目されている。品川駅にはワリと大きな駅ビルも併設されているが、とりあえず高輪口方面にあるスターバックスに入った。トオルちゃんはそのままルナを席で待たせ、トイレに行くふりをしてチサトに電話をかける。

「現在どこ?」

「品川駅だけど」

「どの辺にいる?」

「改札出たところにある時計のすぐ傍」
彼女なりに待ち合わせに適した位置を選んだ様だ。

「現在、港南口方面にあるスターバックスにルナと二人でいるから。今日、どんなカッコして来た?」

「尾行するって言ってたから、一応、ハットかぶってメガネしてるけど」
やはり彼女はプロフェッショナルだ。いまさっきそのヘンを通ってここまで来たものの、まったく気がつかなかった。というよりも、ただ単に人ごみが邪魔して気がつかなかっただけかもしれないが。

「OK。そしたら、スタバまで来て。オレら店の奥の方に座ってるから、気づかれないようにして見える位置に座っててくれよ。ここからは全部LINEでやりとりな」

「了解」
彼女は今日もサバサバしている。

「ああ、お待たせ。今日、印鑑持ってきてる?」
電話を終えて戻ってきたトオルちゃんは、席に着くなり、その必要はまったく無いにもかかわらず、リアリティを演出するために御託を並べはじめた。フリースの胸ポケットから取り出したさっき作成したばかりの誓約書には、次回以降、今日の様な突然の欠勤をした場合のペナルティ等がやんわりと書き連ねてある。当然ながら本当の事を言えば、多少わがままを言ってもかまわないので彼女にはこのまま働いていてほしいのだが。

「以後、気をつけますので」
書面に一通り目を通したルナは黙ってサインをし、印鑑を押した。

「いやあ、オーナーが怒っちゃってさ。まあ、ただのパフォーマンスだから、あんま気にしなくてイイよ。ところでさあ、何かすごいVIPが集まるPARTYなんでしょ?」

「あ、チサトから聞いたんですか?」

「ああ、うん」

「はい。おエライさんばかり集まるらしくて、プロダクションの社長も何人か来るらしいんです。知り合いがその人達紹介してくれるって言うので」
彼女がタレント志望だということは前々から聞かされていた。

「そっか。で、どこであんの、そのPARTY?」

「わからないんです。参加者が参加者なので当日まで教えられないって言ってました」

「あ、そう」
あまり裏表の無い彼女はおそらく嘘をついていない。本当に教えられていないのだ。そうこうしながら、何とかPARTYの詳細につながる話を聞きだそうと四苦八苦していると、チサトからLINEのメッセージが届いた。

「店の外のテーブルに座ってる。二人とも確認できてるから」
やはり早い。

「7時にどのヘンで待ち合わせしてんの?」
チサトがこちらを確認できる位置にいることがわかったので彼女がこの後どこで待ち合わせをしているのか聞いてみた。

「港南口広場の交番前ですけど」

「え、そうなの?」
品川でVIPが集う極秘PARTYということであれば、高輪口を出てスグ目の前にあるホテルで行われそうなものだが。少し離れた場所で事前に打ち合わせ等をするのかもしれない。

「じゃあ、また明日電話してよ」

「はい」
夜7時が近づいてきたので、コーヒーカップを二人分返却口に下げ店を出ると、すぐそこに紫色のハットをかぶり茶色い縁のメガネをかけてモバイル端末をいじっている女性の姿が視界に入った。おそらくヤツだ。ルナが港南口に向かって歩き出したのを確認するとヤツも席を立ち同じ様に港南口へ向かって歩きはじめた。

「交番の前で待ち合わせしてるみたいだから」

「了解」
ヤツは確実に5秒以内に返信してくる。トオルちゃんは視界から完全にルナが消えるのを見計らって、自らも港南口に向かって歩きはじめた。ちょうどリバーシブルので表裏の色が異なるフリースを着ていたので、裏返して着ればおそらく気づかれないだろう。彼は人通りの多い品川駅構内でいったん立ち止まり行き交う人の前でフリースを表から裏へ着替え、再び早足で歩きはじめた。

「うわあ」
港南口に着いたが、思ったよりも人がたくさんいる。JRの改札フロアからそのまま広場を見渡してみたがルナの姿は見当たらなかったのでヤツに聞いてみることにした。

「ルナいまどこにいる?」

「交番の裏側にいるよ」
出来る女は対象の現在地をしっかり把握している。

「男は?」

「いまさっき、合流した」

「そいつの写真撮れる?」

「たぶん大丈夫」

「じゃあ、何枚か写真撮っといてよ」

「了解」
常に早い。トオルちゃんはそのまましばらく改札フロアから交番周辺を見下ろしていたが、よく考えてみると引き続きLINEで連絡を取り続けなければいけない必要が無い事に気がついた。ようやく、この状況だあれば電話の方が手っ取り早いことに気がついたのだが、彼がそれに気づくよりもわずかばかり早くスマートホンがチサトからの電話を着信した。

「何かタクシーに乗ろうとしてるよ、どうする?」

「はあ?」
事前に打ち合わせするワケではなかった様だ。

「とりあえず、お前もそのままタクシーに乗って二人を追いかけてよ。電話は切らないでそのままな。俺もその後を追うから」

「わかった」
ヤツの反応はいつも以上に迅速で、電話越しに聞こえる音から、ヤツもスグにタクシーに乗れたことがわかった。数分、間を空けてからトオルちゃんもタクシーに乗車したが、当然、彼の視界には追いかける対象、その対象を追いかける者、どちらの姿も無い。

「現在、どこ?」

「何か駅から真っすぐ走って真上に高速道路が走ってる広い道に出てきたんですけど」
いくらできると言ってもヤツは女性である以上、方向感覚はさほど鋭くない様だ。

「現在、大きな橋を渡ってます。ああ、ここ天王洲アイルだ」

「天王洲アイル...」
そう言えばどこかで誰かがこの場所の話をしていたような気がするが。

「あ、停まった。運転主さんここで停まってください...」
どうやら、ルナともう一人を乗せた車は目的地に到着した様だ。

「何?どこにいるんだよ現在?」

「何か大きなビルの前で停まったんですけど。あ、降りてきた」

「おいおい、お前も降りて後を追えって」

「わかった」
早いことは早いが、流石に興奮している様だ。

「アイルシーサイドタワーだって。何かすごいんですけどこの建物」

「アイルシーサイドタワーな。そのまま見失わない様に...」
そう言いかけたところにトオルちゃんのスマホが別の電話をキャッチした。

「何なに...」
ディスプレイにはオーナーと表示されている。

「うわああ!」

「お客さん、どうされました?」
よほどトオルちゃんの声が大きかったのか、運転手が心配して声をかけた。

「いや、何でもないです、何でもないんですけど」

「何、どうしたの?」
電話の向こうからはこちらを気づかうチサトの声が聞こえる。そう言えばこの時間にもかかわらず蒲田の駐車場には車が置いたままになっている。間違いなく普通の人ではないオーナーからの電話を無視すると、例え無視してこの場を切り抜けたとしても、その先に何が待ちかまえているか想像すらできない。

「はい、もしもしっ」
危険を感知した時の人間の本能の前では思考力等たちまち無力と化してしまう。

「おお、お前いまどこにいんの?」
電話の向こうの男はわずかながら笑っているようにすら思える。

「ちょっと外せない急用ができまして、品川のあたりにいます」

「一人でか?」

「は、はい」

「嘘つけ。チサトと一緒にいるんじゃねえのか?」

「えっ....」
どうしてそれを。怖すぎる。

「こっちもどうしても外せない急用ができたから、いまスグ速攻でチサトを連れて戻ってこい。待ってるからな」

「え、でも、、、」

「イイから、まだ死にたくなかったら大人しく戻ってこい!それ以上何もするなよ!!」

「は、は、はい、わかりました」
ドスの効いた重点音の前では完全にノーチョイスである」。

「もしもし、もしもし、どうしたの?」
既にオーナーからの電話は途絶えており、チサトとの電話に切り替わっている。

「あ、撤収するから」

「はあ、いまから?何でよ?」
納得のいかない様子のチサトを拾い彼女を強引に説き伏せつつ品川駅で乗ったのは、20:15発、京浜東北線・大船行きの電車だった。
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  1. 2015/01/03(土) 08:30:38|
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