One Touch Freak

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トオルちゃん 008

「大人しく戻ってたきたか。良かった、それでイイよ。お疲れさん」
蒲田駅に着くなり即オーナーに電話をかけると、彼は開口一番優しげな声でそう言った。

「で、急用ってなんでしょう?」

「ああ、もう大丈夫だから」

「えええっ!?」

「何だ、何か文句あんのか?そのまま普段通り夜の仕事すればイイじゃねえか」
電話の向こうの口調が微妙にその前の口調へ戻りそうになる。

「あ、はい。わかりました」
憮然とした表情のチサトを連れていつもの車に乗り込み、店のアカウントをチェックしてみるとチサトを指名するメールが入っている。

「ていうか、何でアタシ、今日出勤ってことになってんの?尾行して終わりなんじゃなかったの?」
店のサイトはオーナーもいじる事ができる。きっと彼が彼女の出勤予定を書き換えたのだろう。ただ、良く見てみると、ルナの出勤予定がこの先ずっと休みにかわってしまっている。

「まあ、イイじゃん、その分稼げんだし。どうする、帰りたい?」

「イイよ、やるよお」
瞬時に決断が下された。早い。

「ホストくんの写真撮ってあるでしょ?」

「あ、うん。一応、二人が入って行った建物の写真も撮っておいたけど」
もしかしたら、彼女はすごくできる女なのかもしれない。彼女がスマホで撮った写真の中にいるホスト君は、典型的な韓流アイドル風で、二人はどこからどう見てもお似合いのカップル、恋人同士にしか見えない。一方の二人が入っていた建物の写真も高級ホテルの様な外観で、この中で豪勢なPARTYが開かれるのに対して特に違和感はない。

「アイルシーサイドタワー」

「流石に蒲田と比べるとかなりギャップがあるよねえ」
助手席に座ったチサトが笑いながらそう語り、さらに続けた。

「昨日のお客さんが言ってた天王洲アイルの高級マンションって、このことかもしれないよ」

「ああ、そうだ!」
そう言えばそうだった。天王洲アイルの話をしたのはつい昨日だった。

「お前、昨日のそのエロライターから他に何か聞いてないの?」

「ええ、あんまり覚えてないなあ」

「何だよ使えねえなあ。何階だったけあの客の部屋?」

「5階じゃなかったっけ」
そう言えばたしかに5階だった。昨日は冗談半分だったものの、トオルちゃんが一方の手でハンドルを握り、もう一方の手にしたスマートホンであらためて履歴に残っているはずの昨日の客の電話番号を探しはじめた。

「ちょっと、運転中でしょ。まずいんじゃないの?」
反論のしようが無い指摘を受け、やむなくいったん我慢したトオルちゃんは、チサトを客先へ送り届けた後、一目散に車内へ引き返し、またスマートホンをいじりはじめる。昨日の客の電話番号はすぐに見つかり、続け様に今度は検索サイトでアイルシーサイドタワーについて調べだした。

~上層階からはウォーターフロントが一望できる高級マンション~
オフィス・ホテル・住居・ショップ・シアター等の施設が併設された施設らしい。大手ゼネコンの手により20年前に完成している。

「たしかに、天王洲アイルの高級マンションだねえ...」
苦笑いとともに思わず声まで出てしまったが、しばらくすると何故だか、ふと数時間前に先生がしきりに口にしていた人物の名前が頭の中に浮かび、今度は彼の事を調べはじめた。

「都議会議員 戸越 栄太」
彼のサイトのトップページにアップされているプロフィール写真の中の彼は満面の笑みを浮かべている。一流大学を卒業した後、外資系のIT企業に就職し、その後、都議会議員選挙に出馬。現在に至るまで一度も落選せずに首都東京で議員を続けている。彼のブログによると、奥さんとの出会いが彼を変えたらしく、彼の奥さんは高齢者介護施設を管理運営する会社の役員であり、何年も前から高齢者福祉関係の活動に積極的に参加しているらしい。そう言えば、トオルちゃんが大学を卒業して働きはじめたばかりの頃、先生はよく本業以外の活動に参加していて、NPOだとかボランティア活動をしている人だとかがよく事務所に出入りしていた様な気がする。先生はこの時のツテをたどってこの人にたどりついたのかもしれない。ただ、あのやっかいなブローカーとの話し合いをしに行くのに、この都議会議員がどこまで何をしてくれるのだろうか?

トオルちゃんは常にやっかいな事情をいくつも抱えている。彼がやすらかな心地になれる場所は、眠っている時を除いてどこにも無い。ましてや最近では、その眠っている時ですらやっかいな事情に侵食されつつあるのだが。

「お疲れ」
一仕事を終えて客先から戻ってきた時のチサトのボキャブラリーもこの一言しか無い。

「ああ、お疲れ。あのさあ」

「なに?」

「お前、昨日の六郷土手の客から電話番号とかメールアドレスとかって聞いた?」

「何で?そういうのって禁止してるんじゃないの?」

「イイから、気にしなくて。ホントの事言ってくれれば全部OKにするからさ」

「ええ、一応、教えてもらっといたけど」
ここでの切り返しもまた早い。

「ちょっと、電話かけてみてくんない?」

「え、今?何で?」

「イイから、かけてみてくれって」

「了解」
一仕事終えてきた後を感じさせないくらい早い。彼女はスグに昨日登録したばかりの番号を呼び出し、電話をかけたが、どうやら相手の電話は電源が入っていなかったらしい。

「また、どっかのお店の女の子とイチャイチャしてんじゃないの」
彼女は吐き捨てる様にしてそう言った。目下、トオルちゃんの頭の中の大半を天王洲アイルの高級マンションで何が行われているのか?という疑問が占拠していたが、そのモヤモヤを払拭するかの様に彼のスマートホンにまたオーナーから電話がかかってきた。

「おお。お疲れさん」

「お疲れさまです」

「最近、品川方面からよく指名が入んのか?」

「え、いやあ、あまりないですけど。さっきのは、ホントに特別な用事でして」

「じゃあ、今後その車使って品川とか天王洲アイルの辺りには行くなよ」

「え、でも、それじゃあ」

「でもじゃねえんだよ。その車は誰の車で、現在やってんのは誰の仕事なんだよ」

「オーナーの車で、オーナーの仕事です」
トオルちゃんの本能がまた危険を感知したらしい。

「店ごと買い取るっていうんだったら話は別だけどよ」

「いやあ、ムリですよそんなの」

「だったら、絶対に行くなよ」

「あ、はい、わかりました」
電話を切った後に込みあげてきたのは恐怖というよりもかすかな違和感だった。彼は数時間前、オーナーに品川のあたりにいるとは言ったものの、天王洲アイルという場所については一言も口にしていないはずだが。オーナーにとって、天王洲アイルは品川周辺の中で真っ先名前が上がる場所なのだろうか?心の中の濃霧は晴れるどころか、ますます深さを増し彼の行く先を覆っていた。
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  1. 2015/01/03(土) 23:43:26|
  2. ◆トオルちゃん
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